犬と旅をした話

いつものようにぼくは朝少し遅くに起きて、近くの喫茶店でトルコのボレキと温かいチャイを空腹の身体にチャージする。

そこで、ネットを少し閲覧して、すぐ近くにある違う喫茶店へと移動する。

ぼくの1日はほんとに退屈なもので、起きて喫茶店を梯子するというなんとも贅沢のような刺激のないような生活だ。

東京にいた頃はこんなに時間を贅沢に使うことはなかった。

いつだって残り時間を計算して何をしなくてはならない、何がしたいと、少ない時間を細かく分けて早足をしていたと思う。

でも、今は時間がありすぎて何をしていいのかわからない。

この日も同じように2件の喫茶店を梯子してこの後何をしようか考えていた。

一度宿に帰ろうと思いぼくは帰路を歩く、そのとき、なんとなく目にとまったリゼの山の景色。

リゼの街から南を見上げるとたくさんのチャイ畑と所々に点在する家々、そしてモスク。

そんなに高い山でもないし、丘というのが正しいか、

ぼくは衝動的に行ってみたくなった。道はわからないが、丘の方向へ歩けばなんとか登れる気がした。

上につながる坂道を見つけぼくはその道を歩き出した。

とても急で車でこの道を上がるとひっくり返ってしまうのではないか?と空想しながら15分ほど登ると一匹の犬が上の方からこちらをみている。

トルコの犬は基本的にとても大きくて野良犬って感じの姿をしている。

触りたくなかった。ぼくの頭の中でこの犬は汚いし、噛まれでもしたら病気になってしまう。素通りして無視しようと決めてぼくは犬の隣を通り過ぎた。

しばらくして、振り返ると少し後ろで犬がこちらをみながら静止している。目があった瞬間に犬はぼくに向かって歩き出してきた。

あぁぁぁー。やってしまった。

犬はついてくるようなのでぼくは少し警戒しながらまた無視して歩いた。

それから30分、1時間、丘の頂上付近までぼくはなんとか辿り着いた。

正確には僕ら。

頂上に着く頃には犬がぼくの前を歩きぼくは犬についていく形になっていた。

ぼくが疲れて休むと犬も3メートル先くらいでこちらを見ながら足を止める。

頂上についてぼくはこの犬に名前をつけた。名前はHadi。トルコのおじさんがよく言っているのを思い出したから。

意味は来てとか。さぁ!みたいな感じだと思う。

そして、横に長いこの丘の頂上を町の端っこまで行ってみる事にした。

頂上に着くと丘の向こう側が見える、下にいた時とは全く違う景色だ。まだ雪の積もった山々、遠くに見える名前もわからない町、チャイ農場やモスク。

ぼくは冒険することの価値を知った。少しだけいつもと違う行動をすると少しだけ景色が変わる。

でもそれはぼくに大きく影響することなのかもしれない。

雪の積もる山
丘からのリゼの町
広大なチャイ農場

景色に想いを寄せているとHadiが退屈そうにこちらをみている。

はいはい、行きますよとぼくはHadiについていく。

それから1時間くらいいくと違う村に着いた。着いた途端に数匹の犬がゾロゾロと出てくる。しかもみんなHadiよりひと回り大きい。ぼくだってこんなの怖い。

すると、Hadiが急に走り出す。大きな犬たちはHadiを家の角に追い詰めて一斉に吠えまくった。

この村は彼らの縄張りらしい。

ぼくは角で縮こまるHadiを見てると悲しくなり、日も落ちる時間だったのでHadiを連れてもとの道を帰ろうと思った。

縮こまるHadiをなんとか起き上がらせて帰路につく。

すると大きな数匹の犬たちも後ろをついてくる。

何が何だか。

しばらくすると彼らは仲良くなったように一緒にぼくの前を歩き出した。

Hadiと犬

1時間も歩くとHadi以外の犬たちは縄張りを移動するのを拒み、またぼくとHadiの二人だけになる。

Hadiは多分はぐれものだ。

他の犬は数匹で縄張りを持つ。村の中で仲間と暮らす。でも、Hadiは群れには属さずに違う生き方を選んでいた。

Hadiは特定の人に養ってもらうことを選んでいるようだ。彼には家族がいる。

Hadiと出会った場所の近くに来ると彼はぼくを置いて一人で走り去っていった。後を追いかけると彼は近くに住むチャイ農家の女性にすごくじゃれている。そして、一緒にチャイ畑の中にある小さな家へと帰って行った。

Hadiのあの興奮気味を見ると寂しいような微笑ましいような感覚になる。

彼はとても自由なんだと思った。

彼は飼い犬だ。でも、自分で行きたいところにも行ける。

そして帰る場所もある。まるで人間のようだ。

彼の生き方は犬の世界では旅人に近いのかもしれない。

群れから抜け出して、自分の居場所を見つける。

そして彼は自分の居場所を見つけそこにいながらも自由に冒険している。

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